食物アレルギーについてーその6― 花粉-食物アレルギー症候群

2021.11.30

今回は、花粉症に関連する食物アレルギーの話題を取り上げましょう。

花粉症は、花粉が原因のアレルギー性鼻炎です。「食物アレルギーについてーその2」で食物アレルギーには様々な感作経路が存在することをお話しましたが(読んでない人は、是非読んでみてください)、「花粉-食物アレルギー症候群」は経気道感作ということになります。花粉症の原因として、スギは誰でも知っていますが、その他にもヒノキ、ハンノキ、カバノキなどの樹木、カモガヤなどのイネ科、ヨモギやブタクサなどのキク科などの草本など、さまざまな花粉がアレルギー性鼻炎や気管支喘息の原因となります。花粉の中に含まれるアレルゲン(アレルギーの原因タンパク)が鼻水、くしゃみ、鼻づまりなどの症状をひきおこします。この花粉アレルゲンと似た構造のアレルゲンを持つ果物や野菜などを食べると、口や唇、のどなどが腫れることがあるのです。これが「花粉-食物アレルギー症候群」です。口腔局所に限定しておこることが多いため、口腔アレルギー症候群とも呼ばれていましたが、時に腹痛や下痢、蕁麻疹、気管支喘息などの全身症状が起こることもあり、最近では花粉-食物アレルギー症候群と呼ぶことが多くなっています。アナフィラキシーを引き起こすこともあります。口などの局所のアレルギー症状にとどまるのか、あるいは、全身に症状が広がるのかは、原因アレルゲンの消化酵素や熱への安定性によって決まります。すなわち、消化酵素や熱によっても分解されにくいと全身に症状が広がるのです。

 例をお示ししましょう。シラカンバ、ハンノキ花粉症の方は、モモ、リンゴ、サクランボなどのバラ科の果物や、大豆、ピーナッツといったマメ科の食物によって口腔局所のアレルギー反応が起こることがあります。この場合、原因のアレルゲンはPR-10タンパク(名前はどうでもよいです)に属し、消化酵素や熱に不安定なため、全身に症状が広がることは少ないのです。多くの人は、生の桃やリンゴでは症状が起こるのに、モモのコンポートやアップルパイでは症状が起こりません。ただし、PR-10タンパクにも例外があり、大豆には注意が必要です。大豆のPR-10タンパクは多少分解されにくいため、豆乳ばかりでなく、熱が入った豆腐や枝豆でもしばしば症状がおこります。でも、厚揚げのようにしっかり熱が入っていると症状が起こることはまれです。


 この他に、イネ科のカモガヤ、オオアワガエリ、キク科のヨモギやブタクサなどの花粉で花粉症症状が起きる方は、果物や野菜が持っているプロフィリンというタンパクによって症状が起きることがあります。例えば、イネ科花粉症の人では、スイカ、メロン、キウイ、オレンジなどで症状が起こることがありますし、キク科の花粉症の人では、セロリ、ニンジン、メロン、スイカ、バナナなどで症状が起こることがあります。この場合も加熱すると食べられることが多いです。とは言ってもメロン、スイカを加熱することは少ないかと思いますが。。。


 一方で、同じ果物や野菜の中には、安定性の高いタンパクが存在し、時に症状が全身に広がることがあります。例えばモモには分解されやすいPR-10タンパク以外に、GRPといいう種類に属するタンパクも存在しており、これは消化酵素や熱に安定なため、GRPに感作されている場合にはアナフィラキシーを発現する場合があります。このアレルギーはヒノキ花粉症と関連していると考えられています。


 局所に限局して症状が出現するタイプの花粉-食物アレルギーの人は、症状が起きない程度の量の野菜や果物は食べても問題ないでしょう。しかし、全身症状が起こる人は、基本的には原因となる食物は避けてください。体調、運動、飲酒、月経、ストレス、など様々な要因により強く症状が出ることがあるので、くれぐれもご注意を!