気管支喘息のバイオ

2025.12.07

 12月6日(土曜日)を診療制限し、東京で行われた講演会「テゼスパイアのエビデンスのすべてがそろった」に参加してきました。

 テゼスパイア(一般名:テゼルマブ)というのは、抗TSLP抗体という重症気管支喘息に用いる注射薬です。難しい言葉でいうと、分子生物学的製剤(バイオ)の仲間です。

 現在、重症喘息の用いられるバイオには、抗IgE抗体であるゾレア(一般名:オマリズマブ)、抗IL-5抗体であるヌーカラ(メポリズマブ)、IL-5受容体抗体ファセンラ(ベンラリズマブ)、IL-4/IL-13抗体であるデュピクセント(デュピルマブ)、があり、最も新しく適応となったのがテゼスパイア(テゼルマブ)です(それぞれの詳細は省きます)。

 TSLPというサイトカインは気道上皮がウイルス感染、ダニや花粉などのアレルゲン、冷気、たばこの煙などで刺激されると、生体に危険がせまっていることを知らせるために分泌され、まさに危険を知らせるアラームということで、アラーミンと呼ばれている物質の1つです。現在、気管枝喘息は、気道上皮が刺激され、このアラーミンが気道上皮から分泌され、それが粘膜内に存在する免疫細胞を刺激・活性化することで、さらなるアレルギー・免疫反応が引き起こされ、気道炎症および、気道収縮が起こる疾患と理解されています。

 気管枝喘息は大昔アリストテレスの時代から知られていたようですが、その病態がわかってきたのは最近です。まず、気管枝が収縮する病気として理解され、気管支拡張薬が頻用されていました。しかし、気管支拡張薬の頻用が却って、喘息死につながることが明らかにされました。やがて、喘息は気道の炎症がその主体であることが明らかにされ、吸入ステロイド薬が標準治療として使用されるようになり、喘息死は徐々に減少し、一時は年間で1万人以上が死亡していましたが、現在では千人程度となっています。また、吸入ステロイドに加え、長時間作用型気管支拡張薬、抗コリン薬なども吸入薬に配合されており、喘息のコントロールは飛躍的に改善しています。しかし、いまなお、内服のステロイド薬(経口ステロイド)を服用しないと、喘息が十分にコントロールできない方も多くいます。経口ステロイド薬は安価で有効性も高く非常に良い薬なのですが、長期的な経口ステロイドの使用は、骨粗しょう症、耐糖能異常、緑内障、白内障、肥満、感染などのリスクを上昇させます。そこで、バイオの登場というわけです。

 TSLPはこの喘息の原因となる、気道刺激による喘息発作を最も上流から抑制してくれる薬として、その効果が期待されています。まだ、発売されて3年たらずですが、少しずつ有効性と安全性のエビデンスが蓄積し、今回の講演会は現在までにわかっていることを皆で共有するという目的で開催されました。

 なお、今回の講演会の演者の1人で、TSLPの喘息における役割を基礎的な見地から解説された、中尾篤人先生は、山梨大学免疫学教室の教授です。私が、山梨大学アレルギーセンターの運営に携わっていた際にも、非常にお世話になった先生で、懇親会で少しお話をさせていただきました。先生は、“松本は素敵な町だから、今度遊びに行くよ”とおっしゃっていましたので、いつか、先生と差しで飲みたいと思います。松本の飲み屋はよくわからないので、勉強しなくちゃ!