第74回日本アレルギー学会参加報告②ー茶のしずく石鹸のその後

2025.11.13

第74回アレルギー学会の報告の第2弾です。

 今回は島根医科大学皮膚科の千貫祐子の講演です。

千貫先生も、しばしばTVにも登場する素敵な女性です。

演題は「アレルギーマーチから考えるアトピー性皮膚炎治療の最前線」です。

 千貫先生もまずは食物アレルギーの話から入りました。

食物アレルギーの診断には、直接食べる経口負荷試験のほかに、血液検査や皮膚テストがあります。最近ではアレルゲンコンポーネント診断も併用されています。ただし、保険診療で認められている項目が少ないため、特定の食材に限ります。1つの食材にも、様々なアレルギーの原因タンパクがありますが、その1つ1つをアレルゲンコンポーネントと呼びます。ナッツ類ではピーナッツのAra h 2、クルミのJug r 1、カシューナッツのAna o 3に対する特異的IgEの測定が保険適用として認められています。Ara h 2では採血で血清中に4U/mL以上検出されれば95%の確率でピーナッツアレルギーがあると診断されますし、Jug r 1では0.98U/mLで95%、Ana o 3では2U/mLで95%診断されます。一般的なピーナッツIgEやカシューナッツIgEと比較して、各段に診断精度が高くなっています。

 さて、みなさん、“茶のしずく石鹸事件”を覚えていますか?もうかれこれ10年ほど前になるかもしれませんが、茶のしずく石鹸を使っていた方の多くに小麦アレルギーを発症し、小麦を摂取すると目が腫れるといったアレルギー反応が出て、社会問題となりました。これは、茶のしずく石鹸の成分の1つに、加水分解小麦が含まれていたことが原因で発症しました。一般的に分子量1万~4万程度の物質が吸収されると、アレルギー反応が起きるようになる、すなわち感作されると考えられています。石鹸は界面活性剤ですので、皮膚のバリアが弱くなり、そこから皮膚に侵入し、感作が成立したのです。この事件をきっかけに、一部の食物アレルギーは皮膚から吸収されて感作が成立して発症することがクローズアップされました。千貫先生はその後の経過にも言及されました。茶のしずく石鹸を中止して5年後には、小麦でアレルギーを発症した人の半分以上が、そして10年後には全例小麦アレルギーが完治したとのことです。アレルギーの感作の過程には、このように皮膚から感作される例、腸管から感作される例、そして鼻などの気道から感作される例があるようです。それぞれの感作経路によって、その後の耐性獲得率が変わってくるようです。少なくとも皮膚からの感作では、中止によって耐性を獲得できるとのことで、これが同じ食物アレルギーでも、耐性獲得できる人とできない人に分かれる原因かもしれませんね。

千貫先生の話は面白いので、次回のコラムでも続きを取り上げます。