2025.06.07
前回のコラムに続いて、今回もシンポジウム「耳鼻咽喉科と睡眠診療のアップグレード」の内容をご紹介します。
2番目の演者は、「「こども睡眠健診」の実現に向けて」という演題で、東京大学 システムズ薬理学の岸先生がご講演されました。
彼らのグループは、腕時計型のウェラブルデバイスにより、“子供睡眠健診プロジェックト”を行い、小児の睡眠状態を研究しています。
一般的に、適正な睡眠時間は小学生では9-12時間、中・高生では8-12時間とされています。睡眠時間が短くなると、メンタルヘルスに影響するのですが、どの学年でも推奨睡眠時間よりも短く、先進国では最短とのことです。特に高学年になるにしたがって睡眠時間は短くなり、高校3年生では3割が6時間未満となっているとのことです。また、平日と週末の睡眠時間との間には乖離があり、週末になるといわゆる睡眠負債を返済するために(平日の睡眠不足を補うために)、起床時刻が遅くなるとのことです。一方で、就寝時間も遅くなっているようで、いわゆる時差ぼけの状態が生まれるとおっしゃっていました。睡眠は、起立性調節障害(自律神経の失調)とも関連しているようで、やはり、睡眠を十分にとることが求められています。しっかりと眠ることで、記憶も定着しやすくなり、学校の成績もあがることがわかっています。
中高生諸所君、夜遅くまでゲームをせず、しっかり睡眠をとりましょうね!
本シンポジウムではさらに、川崎医科大学の兵先生、順天堂大学の井下先生もそれぞれ「開業医における睡眠検査・治療」、「睡眠とSleep Surgery」という演題で講演されました。
兵先生は、睡眠時無呼吸における上気道、特に“鼻の通り”の重要性を強調されていました。井下先生は、CPAPが継続できない人に対しての代替手段として、手術療法を紹介されました。鼻閉を改善する鼻腔手術は、睡眠時無呼吸の重症度への貢献は少ないものの、CPAPの継続には寄与します。鼻の通りが悪くて、CPAPを続けられない方は、ご相談くださいませ。
最近のトピックスとしては、舌下神経電気刺激装置があります。これは、機器を胸部皮下に埋め込み、呼吸と同期して舌下神経を刺激することにより筋肉を収縮させ、睡眠障害を軽減する装置です。CPAPが続けられない人で、扁桃肥大などの解剖学的異常と肥満がない場合に適応になるようです。
小児では、アデノイド切除や口蓋扁桃摘出術は有効なことがあります。いずれにしろ、睡眠障害にたいする耳鼻咽喉科医の役割は大きいのです。
講演を聴講し、「睡眠専門医の制度ができあがったら、私も専門医の取得を目指す」と決意した次第です。