日耳鼻報告1―原発性免疫不全症候群―

2025.06.07

2025年5月28日(水)~30日(金)にわたり、第26回日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会総会が、パシフィコ横浜で開催され、医院を休診し参加して参りました。お休みの間、皆さまには大変ご迷惑をおかけいたしました。

開業して早3年半以上が過ぎましたが医療の進歩は目覚ましく、日々の診療に追われているとどんどん最新の知識から遅れていきます。最先端の情報を常に浴びていた大学時代には経験しなかったことです。学会に参加することで、少しでも新しい知識を吸収できるのです。

 というわけで、数回にわけて学会で学んだことをコラムに書こうと思います。

まず、最初は、ランチョンセミナー「耳鼻咽喉科頭頸部外科領域の原発性免疫不全症候群」について、簡単に触れたいと思います。

 以前にも書きましたが、ランチョンセミナーとは、お弁当を食べながら聴講するセッションです。5月28日には9つのランチョンセミナーが設定されており、自分の聞きたいセッションを選び参加します。8時10分の“あずさ”で松本を出発し、何とかランチョンには間に合いました。

 さて、「原発性免疫不全症候群」とは、先天的に免疫系のいずれかに欠陥がある疾患の総称で、感染力が低下することで、反復して感染症にかかる病気です。400以上の様々な疾患タイプがあり、10万人に2人程度の発症率だそうです。

 耳鼻咽喉科領域では、急性中耳炎を繰り返す、鼻副鼻腔炎を繰り返すなどが代表的でしょう。急性中耳炎は、肺炎球菌やインフルエンザ菌に対するワクチン接種が普及したことにより、以前に比べ受診するお子さんが減っていますが、それでも繰り返し中耳炎にかかるお子さんもいらっしゃいます。半年に3回以上、あるいは1年に4回以上繰り返す場合は反復性中耳炎とされ、免疫の低下が疑われます。特に感染症にたいする代表的な抗体であるIgGの1つであるIgG2値の低下が、反復性中耳炎と関連しているということです。さて、個人的に勉強になったのは、原発性免疫不全症は、子供だけの病気かと思っていましたが、成人になってから発見されることもあるということです。

少し、専門的になりますが、以下に原発性免疫不炎症を疑う10の徴候を、「乳幼児・小児」と「成人」にわけて記載します(出展は厚生労働省原発性免疫不全症候群調査研究班2010年版)。

「乳幼児・小児」

  • 乳児で呼吸器・消化器感染症を繰り返し、体重増加不良や発育不良がみられる
  • 1年に2回以上肺炎にかかる
  • 気管支拡張症を発症する
  • 2回以上、髄膜炎、骨髄炎、蜂窩織炎、敗血症や、皮下膿瘍、臓器内膿瘍などの深部感染症にかかる
  • 抗菌薬を使用しても、2か月以上感染症が治癒しない
  • 重症副鼻腔炎を繰り返す
  • 1年に4回以上、中耳炎にかかる
  • 1歳以降に、持続性の鵞口瘡(口の中のカビ)、皮膚心筋症、重度・広範な疣贅(イボ)がみられる
  • BCGによる重症副反応(骨髄炎など)、単純ヘルペスウイルスによる脳炎、髄膜炎菌による髄膜炎、EBウイルスによる重症血球貪食症候群に罹患したことがある
  • 家族が乳幼児期に感染症で死亡するなど、原発性免疫不全症候群を疑う家族歴がある

「成人」

1.1年に2回以上、中耳炎にかかる

2.1年に2回以上、重症鼻副鼻腔炎を繰り返す

3.2年以上、1年に1回以上、肺炎にかかる

4.非結核性抗酸菌感染症への罹患

5.経静脈投与を要する感染症の反復

  • 体重減少を伴う慢性下痢症

7.持続性の鵞口瘡や皮膚真菌症がみられる

8.2回以上、髄膜炎、骨髄炎、蜂窩織炎、敗血症や、皮下膿瘍、臓器内膿瘍などの深部感染症にかかる

9.反復性または重症ウイルス感染症(ヘルペス、EBウイルス感染症、サイトメガロウイルス感染症、広範囲のいぼ、コンジローマなど)を繰り返す

10.原発性免疫不全症候群を疑う家族歴がある

あてはまりそうな項目があれば、ご相談ください。

(https://www.jsaid.org/consultation)